ターン(第13回東京国際映画祭)
(Turn)
監督:平山秀幸
出演:牧瀬里穂/中村勘太郎/賠償美津子
2000年/日本/111分/☆☆☆☆
批評 久しぶりに日本映画演出の妙義を見る
交通事故に遭い、気がつくと一日前の自宅にいた。
どこもケガをしていない。体は正常。交通事故にあったという記憶はあるが、それを示す事実はない。周りに以上はない。家もある、電気も流れている。世界は正常だ。ただ一つ、この世界には人がいない。
誰もいない世界で、一日が過ぎる。交通事故の起きた、その時間。また、誰もいない、一日前の世界に戻る...
繰り返し、繰り返し、繰り返し、その一日だけを過ごしていると、ある日突然、家の電話が鳴る。向こうの、普通の世界と、こちらの世界が繋がる−
ほぼ全編一人芝居。天候は常に同じ、基本的に昼間だけ。
平山秀幸は、このビジュアル的インパクトに著しく欠ける物語を、画の急激な変化を用いず、役者の演技と、構図で見せるという、日本映画本来の手堅い演出と、「愛を乞う人」で世界的にも高い評価を得た、意外性はないが手堅い演出で作品を一本作ってしまった。
原作が「時と人」をテーマにした作品ということもあって、“時”に取り残された“人”が、正常な時を過ごす人と、電話でだけふれ合うというコンセプト。原作では電話でのみ会話が進むのだが、こちらでは映画であることを最大限に生かし、二人が同じ時間に同じ場所に行く。
意外なほど良かったのは牧瀬里穂の演技。
ビジュアル的なインパクトに欠ける状況で、心理的な孤独さ、不安定さを見事に演じた。たしかに演出的な助けもあったのだろうが、最終的にそれを生かせる役者でなければいけない。なにせ実際に演じるのは役者なのだから。
中村勘太郎は、原作ではヒロインよりも若干年上で中堅のデザイナー。しっかり者という感じが全面に出たキャラクタだが、この映画ではちょっと頼りない駆け出しのデザイナーに変わっている。これによって“正常な時”を刻む世界の描写を明るくすることに成功した。映像が不
賠償美津子、柄本明もベテランらしいしっかりとした演技で脇を固め、作品全体をシメることに成功している。
どちらかと言うと古典的な日本映画演出で作られた映画。
画に意外性はない、画にインパクトもない。けど、日本映画にはこういう面白さもある。そういうことを感じさせてくれる久しぶりの映画だった。好き嫌いは出るだろうけどね。