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トゥモロー・ワールド
監督:アルフォンソ・キュアロン
出演:クライヴ・オーウェン/ジュリアン・ムーア/マイケル・ケイン
2006年/米・英/109分/戸田奈津子/☆☆☆

批評 最強の映像体験

 理由は分からないが、もう18年間子供が生まれていない世界。
 18歳の、史上最年少者が殺されたニュースに、世界がうちひしがれていても、人々は、この絶望的世界でテロ合戦を続ける。

 一人の死に涙しながら、幾人もの人間が、死に行く世界。

 その中で、鎖国政策により国家を、かろうじて存続させている英国で、一人の不法難民の女性が、子供を宿す・・・

 少子化を通り越し、無子化した世界というのは分かるが、それを映像として表現できていないのが、おそらく社会描写としてはもっとも致命的だろう。
 最年少が18歳ということは、おそらくそうとうな高齢化社会になっているはずだが、妙に壮年が多く、老人は少ない。
 その状況下で、なぜ移民を制限せねばならないのかも分からない。
 若年者が減っていると言うことは、労働力の不足が心配されるはずで、その状況で移民を制限している理由は何だろう?
 さらに言うなれば、この世界で横行しているテロ組織が、どんな主張をしているのかも分からない。

 新たに生まれた子供を、なぜ救世主のように扱うのか分からんし、科学的には、むしろ妊娠した女性とその父親 (作中では、どうも売春行為を行っていたようではっきり誰なのか分からないと言っているが) にこそ真の価値がある (なにが他の女性と違うのかを調べれば、状況打開  等々の基本的な問題点が、ちょっと残念だ。

 だが、そうした欠点をかすませるほど強烈なのは、映像だ。
 途中で描かれる、元夫婦の信頼関係が、僅かワンカットで表現する“口でピンポンビール”の上手さ。
 問題のある世界を、可能な限りリアルに見せた抑制された演出。
 あらゆる場所で語られている、最後のワンカット戦闘シーン。

 いやはや、「天国の口、終りの楽園。」で度肝を抜いたアルフォンソ・キュアロン監督。
 すさまじい映像体験であった。
 まさしく映画館で見ないと意味がない一本であると言えよう。

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