ユナイテッド93
監督:ポール・グリーングラス
出演:ハリド・アブダラ/ポリー・アダムス/オパル・アラディン
2006年/米/111分/戸田奈津子/☆☆☆☆
批評 航空管制官の直面した惨劇こそ、光当たらぬ場所の惨劇
9/11 テロでハイジャックされた4機の航空機。
その中でただ一つ、目標に到着しなかったユナイテッド航空93便の物語。
物語はユナイテッド航空93便の搭乗手続きが始まるところから幕を開ける。
まだ、いつもの朝に見えるところから、だ。
前半は、ハイジャックされた機体の乗員、乗客以外では、もっとも早くにその異変に気が付いたであろう航空管制官の物語。
空港管制官が、空域管制官が、連邦航空管制官が、そして空軍の防空司令部が、空前絶後の事態の前に成すすべもなく、現実に打ちのめされて行く様を、抑制の効いた演出と、ドキュメンタリ的カメラワークで、すさまじい迫力で画く。
徹底的に後手に回る対策が、事態の進行の前にむなしい。
一機目の WTC 激突の報を聞き、事態は急激に悪化する。
ついにハイジャック犯が動き出し、ユナイテッド航空93便は彼らの手におちる。
機内の電話で、WTC への、国防総省への攻撃を知り。乗客は決断を迫られる。
この映画最大の欠点は、航空管制官たちが、ひたすら混乱して行くさまを画いた前半に、迫力がありすぎること。
あまりにも迫力がありすぎて、このまま彼らの物語をそのまま見つづけたいという気持にさせられてしまった。
何が起きているのか分からない状態から、何が起きているか分かっていつつ、しかし何も出来ない事の悲劇性が、恐ろしいほどに伝わってくる。
それ故に、彼らこそ、本当の意味で、惨劇の傍観者に“させられてしまった”、悲劇的な人間達だと思い知らされてしまうからだ。
ハイジャック犯も、乗客も、管制官も、正義と悪という単純な構図にしなかったことは高く評価するし、抑制の効いた演出も、ドキュメンタリータッチのカメラ、編集は秀逸だと思う。
それでも、悲しいかな航空管制官の物語が、あまりにも強く印象に残ってしまったのは、映画の狙いとしては、失敗だったのだと思う。
もっとも、TV 番組や書籍で、墜落機のボイスレコーダーから予想される、ユナイテッド93便墜落間際が、すでに頭の中に入っているから、というのもあるのだろうが。
そして、航空管制官の話が頭に入っていなかったからというのがあるのだろうが。