アマデウス
監督:ミロス・フォアマン
出演:F・マーリー・エイブラハム/トム・ハルス/エリザベス・ベリッジ
1984年/米国/158分/☆☆☆☆☆
批評 凡人と天才、嫉妬、復讐
自殺を図って精神病院に収容された老人。
彼は自らを、皇帝ヨゼフ二世に使えた宮廷作曲家アントニオ・サリエリと名乗る。
やがて、彼の懺悔を受け入れに現れた神父は、人生を変えてしまった一人の天才、ウォルフガング・アマデウス・モーツァルトと彼の生涯を語り始める。
1984年のアカデミー賞受賞作品です。ちなみに中に出てくる王宮やら国立劇場は、ウィーン当局の全面協力により総てが本物。えらい豪華です。「エリザベス」で綺麗だなどと言っていると、完全に呑まれる映像。
前半戦のムチャクチャなモーツァルトの馬鹿さ加減と、クソ真面目なサリエリ。
後半戦の、父親の死を受けて精神的なバランスを失ってゆくモーツァルトと、表面上ではあくまでも友人を気取りつつ、裏では総てを利用して追いつめてゆくサリエリという対象描写はまさに見事。
サリエリの嫉妬の恐ろしさは、宮中の立場では自分のほうが上位にあるにもかかわらず、しかし才能はモーツァルトが上回っていること。そしてなにより、才能の無いサリエリは、しかしモーツァルトの才能を理解するだけの能力を有しているという部分にある。
彼が本質的に音楽家ではなく、政治屋で、才能うんぬんではなく宮中の立場しか考えないような人物であればこの嫉妬は生まれなかったのだ。
これは、サリエリの神父への告白と重なる。
最初は優位、というよりも精神的なゆとりを保っていた神父が、所詮は自分も凡人にすぎないことを分からされ、嫉妬、恨み、そねみを分からされてゆく描写と組み合わせることで、サリエリの心理を象徴描写してゆくなどの小技も憎たらしいまでに成功している。
そうそう、もっともこれはお話。映画の中ではサリエリがモーツァルトの口述筆記で書いたことになっているレクイエムも、しっかりモーツァルトの筆跡で残ってます。まぁ未完(続きは弟子が書いた)なんだけど。